恐ろしすぎる子供がいない夫婦の相続

ライププランABC編集部

ある日、ファイナンシャルプランナーへ1通の質問が舞い込んできました。

子供がいない夫婦です。
夫が癌で亡くなってしまいました。
私達夫婦にはマイホームという資産があります。

夫の両親は健在です。自筆の遺言(マイホームは妻へという旨が書かれている)があります。
この場合、相続的な手続きはどうなりますか。

最愛のご主人を失われた悲しみは、言葉に尽くせないものとお察しいたします。
この文章をお読みいただいていることからも、すでに多くの手続きや将来について考えなければならない状況にいらっしゃることと思います。

夫婦で築いてこられたマイホームや資産は、思い出と共にこれからも大切な生活の基盤となります。
ご主人の愛情がそこに残り続けていることを感じながら、ゆっくりと新しい生活を歩んでいけるようお手伝いができれば幸いです。

ただ、相続に関しては初めて経験する事の方が多い場合がほとんどなので、いろいろと心労もあるかと思います。

どうかひとりで抱え込まず、周囲に頼りながら、この大変な時期を乗り越えてください。

このケースでは、夫が亡くなった場合の相続手続きについて、遺言の有無法定相続分がポイントになります。以下に手続きの概要を説明します。

遺言がある場合

遺言が法的に有効である限り、遺言の内容が優先されます。
ただ、その遺言の種類によっても手続きの方法が違ってきますので注意が必要です。

自筆証書遺言の場合

作成方法

自筆証書遺言とは、遺言者が全文、日付、および署名を自分で書き、押印したものです。(2019年の相続法改正以降は財産目録についてはパソコンで作成したものやコピーでもよく、署名や押印が必要です。)

信頼性

手軽に作成できる反面、記載ミスや形式不備があると無効になるリスクがあります。また、遺言書の偽造や紛失の可能性もあります。

保管と安全性

遺言者自身が保管しますが、紛失や改ざんのリスクがあります。2020年以降は「法務局による自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、安全に保管できます。

費用

作成に費用はかかりません。ただし、保管制度を利用する場合には少額の手数料がかかります。

自筆証書遺言の場合の相続手続き

自筆証書遺言は家庭裁判所で「検認」の手続きを受ける必要があります。

遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければなりません。

裁判所

検認:遺言書を改ざん防止のために確認する手続きであり、遺言書の内容そのものを判断するものではありません。

検認の申立てがあると,相続人に対し,裁判所から検認期日(検認を行う日)の通知をします。申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは,各人の判断に任されており,全員がそろわなくても検認手続は行われます。

裁判所

自筆証書遺言の場合、検認の手続きのために家庭裁判所から法定相続人(今回のケースだったら夫の父母)に検認期日の通知が行くのだけれど、検認期日に全員がそろわなくても検認手続き行われるという事ですね。
家庭裁判所から通知が行くって結構なインパクトなので、事前に話は通しておいた方が良さそうですね。

公正自筆証書の場合

作成方法

公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を聞き取り、遺言の内容を文書に起こして作成します。遺言者と証人2名がその場に立ち会い、内容を確認したうえで署名・押印します。

信頼性

公証人が作成するため、形式の不備や内容の誤解がほとんどなく、信頼性が高いです。また、原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配もありません。

保管と安全性

公証役場で原本が保管されるため、安全性が非常に高いです。

費用

公証人手数料がかかります。遺言の内容や財産額によって費用は異なりますが、数万円~数十万円程度が一般的です。

公正証書遺言の場合の相続手続き

公正証書遺言で作成されている場合は、検認は不要です。

公正証書遺言なんて費用もかかるし、ほとんどのご夫婦が用意していない場合がほとんどなのではないでしょうか。

遺言の内容に基づいた相続手続き

自筆証書遺言(検認後)、公正証書遺言、いずれの場合も遺言に基づいた内容で相続手続きを行っていきます。

  • 遺言書に記載された内容に従い、遺産を分配します。
  • 遺言書に指定がない財産(遺言で触れられていないもの)がある場合、その部分については法定相続のルールが適用されます。

法定相続分(遺言書がない部分や全体的な配分の基本ルール)

夫婦に子どもがいない場合、配偶者夫の両親が相続人となります(民法890条、民法900条)。
法定相続分は以下の通りです:

  • 配偶者(妻):3分の2
  • 夫の両親:3分の1を両親で分け合う(両親ともに健在であれば、それぞれ6分の1ずつ)。

今回ご相談の奥さまの場合は「マイホームは妻へ」という旨の遺言書があったからよかったですね。
もし遺言書にその旨の記述がない場合、相続したマイホームが夫の両親と共有になってしまうと考えると、正直ちょっと気が重いですよね…。

実際の資産分割

資産がマイホーム(不動産)で、遺言書がない場合、以下の選択肢を検討することが一般的です。

① 配偶者がマイホームを相続する場合

  • 相続人全員の合意が必要です。配偶者が住み続けるため、マイホームを妻が相続することに合意できれば、遺産分割協議書を作成して手続きを行います。
  • 両親が自分の取り分を放棄することも可能です(放棄は協議の結果によります)。

② マイホームの共有状態を解消する場合

  • マイホームの価値に応じて、両親の取り分を妻が現金で支払う(代償分割)方法があります。
  • 資産全体が不動産のみで現金が少ない場合、家を売却し、その代金を分配する選択もあります。

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相続税の考慮

  • 配偶者の相続分は1億6,000万円まで、または法定相続分までは相続税が非課税です。
  • 両親への相続分が相続税の課税基準額(基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、税務申告が必要です。

手続きの流れ

  • 遺言書の確認・検認(必要な場合)
  • 相続人調査(戸籍謄本で確認)
  • 遺産の評価・目録作成
  • 遺産分割協議(必要に応じて)
  • 相続登記や名義変更
  • 相続税申告・納税(必要な場合)

このような状況で、感情的な負担も大きいと思いますが、適切な手続きを踏むことでトラブルを防ぎ、大切な資産を守ることができます。

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